NFM感度測定の測定環境

Piラジオのアナログ復調機能の受信感度を測定してみます。 アナログ復調といってもAM、FM、SSBなどがありますが、50MHz以上で一般的なFMで感度測定することにします。
FMの中でもPiラジオのターゲットになるのは狭帯域FM(NFM)ですが、以下の測定方法が知られています。

SINAD法
変調波だけでS/Nを測定するため歪成分まで含んだ感度測定が可能

NQS法
変調波と無変調波の電力比からS/Nを求める測定方法

SINAD法は1kHzの変調波とノイズ分を急峻なフィルタで分離して測定する必要があるため 装置または測定プログラムが複雑になります。 NQS法は変調波と無変調波を個別に測るため装置や測定プログラムがシンプルに構成できます。 そこで今回はNQS法で感度測定を実施しました。



測定中の様子。
測定器としてはSG1台があれば良い。アンプ内蔵スピーカーで受信音をモニターしている。



今回感度測定した測定システム図です。
SGだけで測定できますが、NFM復調ソフトはEmphasisが実装されたV1.10以降が必要です。

ソフトウェアにEmphasisを追加

FMの通信機は送信側にプリエンファシス、受信側にディエンファシス回路を持ってS/Nを改善しています。 つまり感度測定する場合はこれらのしくみが備わっていないと、 ノイズが大きくなって実際よりも低く感度が測定されてしまいます。
そこで今回、感度測定のために復調の後ろにディエンファシス特性を持たせたフィルタを追加しました。 ディエンファシス特性は300Hz〜3kHzの間で-6dB/octの勾配を持った特性と規定されています。 これは1次のLPF特性になるため、fc=300Hzの1次LPF係数を作りIIRで実装しています。 同時に電力計測時に邪魔になるDCオフセットもIIRのHPFで取り除いています。



NQS測定の手順は以下に示す通りです。
測定1で規定の強度(30dBu)の変調波を受信機に入力し、その時のAF電力を測定し、これを測定値①とします。
その後、測定2で無変調にした信号を受信機に加え、その時の測定値②が①の1/10つまり-20dBになるまで SGのレベルを下げていきます。-20dBになった時のSGの出力レベルがNQS感度となります。



測定手順

測定には必ずEmphasis対応版のNFM復調ソフトV1.10以降をインストールしてください。


測定する周波数はクロック源などの影響が出にくい半端な周波数を選びます。 例えば100MHzはFPGAクロックの高調波と一致するため104MHzなど少し離れたとろこを選びます。
シンセのクロックが25MHz、FPGAが50MHzなので25MHzの整数倍は避けるべき周波数です。

F2、F8キーを押してIIR、FIRともに10kHzにします。

[E]キーを押してEmphasisをONにします。
すると画面に復調された信号レベルがdBで表示されます。



無変調状態で周波数チューニングを±1kHz程度変化させてS/Nが最も良くなる周波数を探します。
信号レベルは-50dB程度まで下がるはずです。



SGの変調をONすると信号レベルが0dB付近になるはずです。この時の値を測定値①とします。
-10dB以下などレベルが上がらない場合は周波数を微調整してみるか、 周波数を1MHz程度移動して最初からやり直します。



SGを無変調にして出力レベルを-110dBmあたりまで下げます。
測定値①より20dB下がる値までSG出力を調整します。 写真の例では測定値①が1dB程だったため-19dBになるまでSG出力を調整することになります。

この時のSG出力の値がNQS感度となります。

測定結果

以上の手順を50MHzステップで実行した結果が以下のグラフになります。
1GHz以上はLNAのゲインが低下するため感度測定が困難になるため省略しています。
NFMは1GHz以上で使う例はほとんどないため問題にはならないと思います。



700MHz以下では概ね-120〜-110dBmの感度でした。
測定に使用したボードは標準的な性能だったため、バラツキによってこれを数dB程度上回るボード、 或いは下回るボードが存在します。
参考値としてADCが飽和する限界の入力レベルも測定し、Saturateとして示してあります。

1GHz以上はアプリケーション別に何らかのLNAを付加して使用するケースが多くなります。
例えばBSパラボラアンテナ、LNA内蔵型GPSアンテナなどを想定しています。

トランジスタ技術(2017年1月号)の記事では気象衛星NOAAの受信のために外付けLNAを付加していましたが、 執筆時点での感度は今の状態よりも10dB程度悪かったため、 現状(基板がRev.C以降)ではゲインの高いアンテナを使えばLNAなしでNOAA受信が可能だと思われます。